AGA Clinical Practice Update on Management of Iron Deficiency Anemia: Expert Review
鉄欠乏性貧血についてのアップデートを読んでみました。
特に高齢者では内服の副作用に悩まされることが多いので、内服の頻度を隔日にしたほうが忍容性だけでなく吸収率も上がるのは驚きでした。
週2回や週1回など、さらに頻度を減らした場合はどうなのか個人的には気になっていますが、現時点では特にエビデンスとしては見つかりませんでした。でもそれくらい患者さんから内服の鉄剤は不評なんですよね。。。
その他についてはフェリチンの具体的なカットオフ値や、炎症性腸疾患における合併率80%などが勉強になりました。
そのうち鉄剤不応性貧血についてもまとめたいものです。
【鉄欠乏性貧血(IDA)の診断と評価】
疫学
- 世界で最も一般的な栄養欠乏症。
- 米国の罹患率
- 男性: 鉄欠乏症(ID) 1~4%、IDA 2%。
- 女性: ID 39%(閉経前) / 8%(閉経後)、IDA 4~17%。
診断のポイント
- フェリチン
- AGAガイドライン: IDAの診断基準としてフェリチン値45mg/dLを推奨。
- 炎症性疾患のある患者: 45mg/dL以上(通常100mg/dL未満)でもID/IDAの可能性あり。
- 評価の対象
- 食事性鉄摂取の評価
- 月経による出血量の評価
- 吸収不良や消化管出血の評価(例: ヘリコバクター・ピロリ感染)
- 複雑なケースの対応
- 消化器専門医、血液専門医、栄養士を含む多職種管理が必要となる場合あり。
【経口鉄剤による治療】
基本情報
- 硫酸第一鉄が最も安価な鉄製剤として推奨される。
- 他の製剤と比較して優位性を示す証拠はない。
投与方法
- 1日1回投与で十分。隔日投与も忍容性が向上し、吸収率は同等。
- ビタミンC(80mg)併用で吸収改善の可能性。
- 鉄とキレートを形成し、不溶性の鉄化合物の形成を防ぐ。
- 三価鉄を二価鉄に還元し吸収を助ける。
- ただし、効果のエビデンスは混在しており、さらなる研究が必要。
副作用
- 便秘(12%)、下痢(8%)、吐き気(11%) などが報告されている。
吸収に影響を与える因子
- 食事と同時摂取で吸収が低下するが、忍容性が向上する場合あり。
- 動物性タンパク質と摂取すると吸収が改善される。
- 500mgのビタミンCを使用すれば、カルシウムや繊維の影響を受けずに吸収可能。
- お茶やコーヒーは鉄の吸収を阻害するため、服用後1時間は避ける。
【静脈内鉄剤による治療】
適応
- 経口鉄剤に不耐性 または 血球数や鉄貯蔵量が改善しない場合 に推奨。
- 経口鉄剤投与の貧血患者では、以下が期待される:
- 2週間以内にヘモグロビン 1g/dL 上昇。
- 1ヶ月以内にフェリチン値増加。
- これらを満たさない場合は静脈内鉄剤を検討。
特徴
- 1回または2回の点滴で鉄の補充が可能。
- 全ての静脈内鉄製剤は同様のリスクを持つ。
安全性
- 真のアナフィラキシー反応は非常にまれ。
- ほとんどの副作用は補体活性化関連の偽アレルギー(輸液反応)。
- 軽度: 点滴を中止し、15分後に再開すれば十分。
- 重度: コルチコステロイドが有効な場合あり。
適応疾患
- 肥満外科手術後、活動性IBD、経口鉄剤の吸収が期待できない場合に推奨。
副作用
- 軽度の反応: 約 200人に1人
- 重度の反応: 約 20万人に1人
【特定の疾患におけるIDAの管理】
肥満外科手術後
- ルーワイ胃バイパス術など十二指腸の鉄吸収が妨げられる手術後に静脈内鉄剤を推奨。
炎症性腸疾患(IBD)
- IBD患者の最大90%がIDまたはIDAを発症。
- 静脈内鉄剤が経口鉄剤よりも効果的で忍容性が高い。
- メタアナリシスによるエビデンス
- 静脈内鉄剤: ヘモグロビン値を2.0g/dL以上改善(オッズ比1.57)、治療中止率が低い(オッズ比0.27)。
- ただし、軽度かつ安定した症例では経口鉄剤も選択肢。
門脈圧亢進性胃症(PHG)
- 経口鉄剤で鉄貯蔵量を回復。
- 非選択的β遮断薬(プロプラノロールなど)で門脈圧を軽減。
胃前庭部血管拡張症(GAVE)
- 鉄補充 + 内視鏡治療(EBL またはアルゴンプラズマ凝固)。
- EBLは輸血の必要性を減少(-2.30回)、ヘモグロビン改善(+0.59g/dL)。
セリアック病
- 患者の2~6%がIDAを呈する。
- グルテンフリー食 + 経口/静脈内鉄剤を検討。
- 重症例や食事療法で改善しない場合は鉄剤補充を考慮。
小腸血管拡張症
- IDA患者の20~40%が小腸血管拡張症を有する。
- 内視鏡治療(アルゴンプラズマ凝固など) + 鉄補充療法を併用。
- 難治例: ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド)や抗血管新生療法(サリドマイド)を検討。
- サリドマイドは輸血回数や再入院を減らすが、末梢神経障害のリスクあり。
【結論】
- IDAの管理には鉄補充と原因の特定が重要。
- 経口鉄剤が有効なら第一選択。
- 重度の鉄欠乏や経口鉄剤の有効性が低い場合は静脈内鉄剤が安全かつ効果的。