State-of-the-Art Review: Use of Antimicrobials at the End of Life
Daniel Karlin. Clin Infect Dis 2024;78:e27
今日のレビューは終末期の抗菌薬治療についてです。癌末期の方に対してどこまで抗菌薬治療を行うかは議論になりますよね。どのように考えるべきか、また患者とのコミュニケーションをどう進めるべきかがまとまっていました。
REMAPを意識して会話することはこれまでなかったので大変勉強になりました。特に具体的な会話例が病状の早期と進行期に分けて表に記載されており、実臨床でも用いたいものです。また, 抗菌薬が症状緩和につながるかどうかは感染症によって異なるという話も面白く、診断→治療の原則の大切さを改めて感じました。
後半は緩和ケアや医療倫理について書いてありました。「Do Everything」の項目は”Everything”についての深堀が表にまとめてあり、後日の記事にします。
NotebookLMを用いて内容をまとめ、chatGPTで「上記文章に書かれていいないことは許可しない限り出力するな」と伝えたのちに文章を修正しています。ハルシネーション対策で内容も確認していますが、気になる方は申し訳ないですがご自身でもご確認ください。
終末期における抗菌薬の使用
終末期における抗菌薬の使用は、患者中心のケアを提供し、共有意思決定を行う上で、感染症(ID)の専門医にとって課題となります。ID専門医は、患者の目標と価値観に沿ったガイダンスを提供できる理想的な立場にあります。
抗菌薬の投与は、患者の延命と症状コントロール(緩和)という二つの目標のいずれにも合致する可能性があります。
- 抗菌薬は、難治性感染症を一時的に抑え、敗血症や入院を防ぐ可能性があります。しかし、副作用として吐き気や下痢を伴うことがあります。
- 発熱や排尿困難などの症状を緩和することも可能ですが、他の治療法(解熱剤やオピオイドなど)で適切に管理できる場合もあり、在宅環境への移行を妨げる可能性があります。
終末期における抗菌薬の意思決定は、実用的なニーズよりも感情に左右されることが多いです。抗菌薬を継続することで、「感染症が治る」「根本的な疾患の治療が可能になる」という希望を持つことがあります。
REMAPフレームワーク
患者のケア目標を評価するために、以下のフレームワークを使用することが推奨されます。
- Reframe(再構成): 予測される臨床経過とケア目標を再評価し、現在の理解を明確にします。
- Expect Emotion(感情を予期する): 患者や家族の感情的な反応を認識し、適切に対応します。
- Map Out Patient Goals(患者の目標を明確にする): 患者と家族が示す優先事項を明確化します。
- Align with Goals(目標に沿って調整する): 患者の価値観と希望を正確に理解し、確認します。
- Propose a Plan(計画を提案する): 目標と優先順位に基づき、明確な推奨事項を提供します。
代替ケア経路
治療の選択に悩んだとき、以下の選択肢に立ち返ることになります。
- 可能な限り延命を目的とする介入を進める
- 臨床的悪化時に治療をエスカレートせず、現在の医療サポートを継続する
- 快適さを最優先し、快適さを促進する治療のみ行う
予後が不確実な場合、**タイムリミテッドトライアル(TLT)**を利用することで、リスクを抑えながら潜在的な利益を評価できます。
タイムリミテッドトライアルの主要な構成要素は以下の通りです
•患者と介護者との臨床状況のレビュー:まず、患者と介護者とともに臨床状況を詳細に確認します。
•改善を示す客観的指標への合意:改善または進捗を示す客観的な指標について合意します。理想的には、家族が容易に確認でき、他の治療や時間経過によって紛らわしくない兆候(例えば、発熱の停止、血管作動薬や酸素の必要量の減少)を特定します。
•再評価のための期間の設定:抗菌薬の効果を再評価するための期間を設定します。細菌性または真菌性敗血症の場合、2〜3日間が推奨されますが、臨床状況や迅速な意思決定の必要性に応じて、より短いまたは長い期間を使用できます。
•TLT終了時のアクションの定義:有効性に基づいて、TLT終了時のアクションを定義します。効果がない場合は、別のTLTを交渉するか、抗菌薬を中止し、終末期ケアの計画を立てる必要があります。
TLTの成功は、患者、介護者、および臨床医の間の信頼と良好な関係に依存します
緩和ケアへの移行
詳しくは別記事で記載します。
- ホスピス患者の多くが抗菌薬を投与されていますが、症状緩和における効果は明確ではありません。
- 最も効果的なケースは、尿路感染症による痛みや排尿困難を緩和する場合です。
- 肺炎の患者では、抗菌薬によって症状が緩和されるどころか、苦しみを長引かせる可能性があります。
- 症状管理のための非抗菌薬オプション(オピオイドや解熱剤など)を検討すべきです。
- 患者と家族は、「抗菌薬を継続しなくてもホスピスチームが症状管理を適切に行える」ことを理解する必要があります。
REMAPフレームワーク
終末期ケアの意思決定を支援するための構造化されたアプローチであり、患者とその家族が自身の価値観や目標に沿った治療法を選択できるよう支援します。このフレームワークは、Reframe(再構成)、Expect Emotion(感情を予期する)、Map Out Patient Goals(患者の目標を明確にする)、Align with Goals(目標に沿って調整する)、Propose a Plan(計画を提案する) の5つの段階で構成されています。
以下に、REMAPフレームワークの各段階について、表と図を統合して詳しく説明します。
表1. REMAPフレームワークの各段階
医療コミュニケーションの段階別アプローチ
段階 | 主なポイント | 初期段階での表現例 | 終末期段階での表現例 |
Reframe 再構成 | 予期される臨床経過やケア目標の再検討を行う。現在の理解を明確にし、必要なら追加の予後情報を簡潔かつ共感的に伝える。 | 「感染症の現状について、どのように理解されていますか?治療はどのように効果を発揮していますか?」 | 「今は状況が違います。治療はもはや期待どおりに効果を発揮しておらず、終末期が近づいているのではないかと心配しています。」 |
Expect Emotion 感情の予期 | 言葉や非言語の感情的反応を認識し、共感的に対応する。感情に対処することで、患者の目標や価値観を引き出し、最適なケア計画を立てる重要なステップとなる。 | 「このことをお聞きになるのはつらいことだと思います。」 | 「誰でもこのような状況では悲しくなるでしょう。もっと良いニュースをお伝えできればよかったのですが。」 |
Map Out Patient Goals 患者の目標を明確にする | 患者や家族の優先事項を明確にする。すぐに決定を求める必要はないことも伝える。 | 「病気の治療と感染症の管理を続ける上で、何が最も重要だと感じますか?何を優先すべきでしょうか?」 | 「終末期が近づいていることを考えると、今何を最も優先すべきでしょうか?」 |
患者が優先順位を挙げられない場合、他の患者の選択例を示す。 | 「快適さに影響があっても、感染症の進行を遅らせるために積極的な治療を選ぶ方もいます。一方で、副作用を軽減することを優先する方もいます。どちらの道があなたの希望に合っていますか?」 | 「最後の数日間を自宅で最大限に過ごしたい方もいれば、延命のためにあらゆる治療を尽くしたい方もいます。どちらがご希望に近いでしょうか?」 | |
患者の具体的な目標を詳しく掘り下げる。 | 「副作用について何が心配か、詳しく教えてください。どのような状況を避けるべきでしょうか?」 | 「家族との時間を持ちたいとおっしゃいましたが、それはどのような時間ですか?」 | |
Align with Goals 目標に沿って調整する | 患者の価値観や希望を正しく理解し、聞き取った内容を振り返る。感情や恐怖なども含めて対話する。 | 「あなたは快適さを最優先したいとお考えですね。それを踏まえて治療方針を決めましょう。」 | 「あなたは別れの時間を持つことを最も大切に考えていますね。医療チーム全体がその実現を支援したいと考えています。」 |
Propose a Plan 計画を提案する | 伝えられた目標・優先順位をもとに、明確な推奨事項を提供する。許可を求めることで患者や家族が受け入れやすくなる。 | 「今後は、あなたにとって最も耐えられる抗菌薬レジメンを使用するようにしましょう。」 | 「あなたのパートナーが最も大切だと考えていることを踏まえ、それを達成するための最善の方法を共有してもよろしいでしょうか?」 |
早い段階での会話では、将来に備えて予測的な推奨を行う機会とする。 | 「感染症を治療するために多くの処置と抗菌薬を使用すれば、病院での時間が増え、ご家族と離れることになるかもしれません。その時が来たらアプローチを再検討しましょう。」 | 「数週間前にこのことを話し合いましたね。今、より多くの処置を行えば、最後の時間を病院で過ごすことになるかもしれません。代わりに、ご家族と快適に過ごせる選択肢について話し合いましょう。」 |
患者の価値観と優先順位を尊重しながら、抗菌薬の適切な使用を促進し、将来の世代や地域社会全体の利益に貢献するために、抗菌薬スチュワードシップの原則を実践する必要があります